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異國人からみた日本人  ―ハインリツヒ・シユリーマン―  壹  

 トロイアを發見したとして有名な獨逸の考古學者、H・シユリーマン氏。
 彼は四十三歳で世界漫遊に旅立ち、支那を遊歴したのち來日する。時之皇紀二千五百二十五年、慶應元年の七月十五日。當時我が國は尊皇攘夷眞つ盛りとも云ふ可き時期である。

 支那に於て氏は上海、烟臺、天津、北京、萬里の長城を巡り、日本では横濱から吉原、八王子、そして江戸巡りをしたさうだ。氏は各地に赴きそこに住む人々や文化を觀察し、詳細に亙つてこれを記載してゐる。
 日本ではそれこそ錢湯、遊廓、芝居劇場、農村、寺院、大名屋敷、そして愛宕山まで赴いたといふ。

 その模樣が彼の處女作『シユリーマン旅行記 清國・日本』(ハインリツヒ・シユリーマン著/石井和子譯・平成十年四月十日「講談社學術文庫」發行)に克明に記されてゐる。
 當時の國民の生活、價値觀を具に傳へられてをり、面白い。
 氏の日本に對する知識の乏しさから乎、見當外れの感想もまゝあるが、それも亦た面白い。
 よつて御奬めの一册として御紹介申上げる。

 興味深いのは、清國と日本との印象の相違だ。そは對照的であるとさへ去つて宜い。

 彼による清國に於ての感想は、「宿泊施設は石のベツドで部屋は酷い惡臭」「食事が不味い」「町は埃に襲はれ呼吸が困難」「乞食に付纏はれる」等々不滿が多い。
 譽めてゐるのはわづかに「萬里の長城から見る絶景」と「芝居の演技が素晴しい」といふ程度であつた。

 シユリーマン曰く、
『私はこれまで世界のあちこちで不潔な町をずいぶん見てきたが、とりわけ清国の町はよごれている。しかも天津は確実にその筆頭にあげられるだろう』
『どうしてもしなければならない仕事以外、疲れることは一切しないというのがシナ人気質である、これは言っておかなくてはならないだろう』と。

 扨、次に掲げる日本に於ての彼による感想に、暫し注目せられよ。

 ~續く~

by sousiu | 2010-05-09 21:51 | 良書紹介

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