異國人からみた日本人  ―ハインリツヒ・シユリーマン―  貳  

 ~承前~

 北京より日本に向かふ船上にて曰く、
『われわれは六月一日朝六時、日本で最初の、小さな岩ばかりの島が見える地点に到着した。私は心躍る思いでこの島に挨拶した。これまで方々の国でいろいろな旅行者に会ったが、彼らは感動しきった面持ちで日本について語ってくれた。私はかねてから、この国を訪れたいという思いに身を焦がしていたのである

 來日してのち曰く、
『船頭たちは私を埠頭の一つに下ろすと「テンポー」と言いながら指を四本かざしてみせた。労賃として四天保銭(十三スー)を請求したのである。これには大いに驚いた。それではぎりぎりの値ではないか。シナの船頭たちは少なくともこの四倍はふっかけてきたし、だから私も、彼らに不平不満はつきものだと考えていたのだ』

 曰く、
日本に来て私は、ヨーロッパで必要不可欠だとみなされていたものの大部分は、もともとあったものではなく、文明がつくりだしたものであることに気がついた。寝室を満たしている豪華な家具調度など、ちっとも必要ではないし、それらが便利だと思うのはただ慣れ親しんでいるからにすぎないこと、それらぬきでもじゅうぶんやっていけるのだとわかったのである。もし正座に慣れたら、つまり椅子やテーブル、長椅子、あるいはベッドとして、この美しいござを用いることに慣れることができたら、今と同じくらい快適に生活できるだろう。もしヨーロッパの親たちが日本の習慣を取り入れて、子供たちの結婚準備から解放されたら、それはなんという励ましになるだろうか』

 曰く、
日本人が世界でいちばん清潔な国民であることは異論の余地がない。どんなに貧しい人でも、少なくとも日に一度は、町のいたるところにある公衆浴場に通っている。しかも気候が素晴らしい。いつも春の陽気で、暑さにうだることも、寒さを嘆くこともない』

 曰く、
『これは騎士制度を欠いた封建体制であり、ヴェネチア貴族の寡頭政治である。ここでは君主がすべてであり、労働者階級は無である。にもかかわらず、この国には平和、行き渡った満足感、豊かさ、完璧な秩序、そして世界のどの国にもましてよく耕された土地が見られる

 曰く、
『こういううんざりするするような過剰警備に抗議をしたが徒労に終わったし、またその理由をあれこれ憶測してみたがそれも無駄だった。役人たちが欲得ずくでこのげんなりするまでの警備に励んでいるのではないことはよく承知している。だからなおのこと、その精勤ぶりに驚かされるのだ。彼らに対する最大の侮辱は、たとえ感謝の気持ちからでも、現金を贈ることであり、また彼らのほうも現金を受け取るくらいなら「切腹」を選ぶのである』(原文ママ)と。

  ~續く~
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by sousiu | 2010-05-09 22:18 | 良書紹介

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