日露戰爭實記  參  

明治卅八年十二月十三日發行 第百八號「梅澤旅團 壯烈譚」所收


『二  是れ等勇士』

 十月十一日の戰鬪が、如何に猛烈を極めつゝありしか、是れも同じく同聯隊の同中隊に屬する、上等兵齋藤米三郎氏、又重傷を負うて倒るゝや、怒れる眼に血を注ぎつゝ前方の樹林を睨み、『アヽ、彼(あ)の樹林、彼の樹林に突撃する事が……殘念ツ』と、あはれ千秋の憾みを呑むで、本溪湖東北方高地の露と消え果てぬ。蓋し其の前方の樹林とは、我が散兵線を隔つる五十米突(めーとる)計(ばか)り、當日敵の據る處なり。然るに茲にまた同隊の一等卒松田榮藏氏も、力戰已(すで)に數時に及むで、其の右上肢に負傷し、再び銃を執るを得ず、而も顧みれば、戰友の死するもの愈々夥しくして、今や形勢漸く危からむとするや、悲憤慨歎禁ずる能はず、自ら創面を繃帶し、痛苦を忍むで、茲に彈藥糧食の運搬に任じたりといへるに、石井上等兵(猪吉)柳川一等卒(久)等亦等しく敵の傷くる處となり相顧みて曰く、『柳川やられたか、己(お)れも喰つたぞ、だがやれゝゝ今一息だぞ今が肝腎な處だ、……』『ヨシ、心得て居る餘り皆ンナで傷られた處を見せては、味方の士氣を弱らせるから、これは隱して……』『サウだ、其の氣でシツカリ……』、戰漸く止むに到つて、隊長親しく之れ等勇士を招き殊に其の拔群の働き振りを稱して讚歎激賞せられたり。

(文中、振り假名は小生による)


(三)に續く
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by sousiu | 2010-05-20 21:27 | 良書紹介

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