日露戰爭實記  陸 

明治卅八年十二月十三日發行 第百八號「梅澤旅團 壯烈譚」所收


『五  病院は我が死處に非ず』

 是れも同じく一聯隊第一大隊付なる輜重■[左「車」+右「兪」]卒(ゆそつ)相田傳吉氏は、出征以來暫時にして夜盲(よめくら)となり、朝鮮行軍中の如きは道路嶮惡の爲め、夜間に亙る事屡々なれば、一層其の困難を加へたるべきも、■卒(ゆそつ)は常に準備周到にして、曾つて集合に後れたる事なく、戰友は、■卒(ゆそつ)が夜中の困難を見るに忍びず、代る々ゝ相保護して、其の手を曳きて先導し、到着後も馬匹の休養及び其の萬般の事を助け居たるが、彼れは恁(か)く迄に戰友を煩はさむ事を慮り、夜間馬側を離れず、戰友勸むるに入院治療の事を以てするも、■卒(ゆそつ)が倒れて休むの決心は遂に之れを動かす能はざりき、然るに彼れは不幸にも、鳳凰城に於て風土病の侵す處となり終(つひ)に同處に殘留するの止まむなきに到り、一時本隊と離れたるが彼れは入院中も、何卒今一度本隊に復し、せめては其の任務の爲に斃れたく、『病院は我が死處にあらず……』と、切に乞うて止まざれば、軍醫も、■卒(ゆそつ)の熱誠を感じ、稍々(やゝ)其の囘復に赴けるを以て、彼れの所願を達せしむる事となしければ、彼れは雀躍(じやくやく)抃舞(べんぶ)して、本隊に來り合し『隊長殿、漸く赦されて歸りました』と、其熱心驚くに堪へたり。

(文中、振り假名及び、■[]()は小生による)

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(六)に續く
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by sousiu | 2010-05-21 01:14 | 良書紹介

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